milo23の『何でも食うよ。』

2020.5.25から再開。独白を綴っていこうかなとか思ったので。

「火車」宮部みゆき著

またまた宮部。しかし、今回はいままでとは趣向が違った。テーマも重く、しかも身近に起こっていることを取り上げているせいもあるだろうがそれだけではない。
この話のベースに「カード破産」があるからだ。
私は「破産」こそしていないが借金が膨らんでいったがために弁護士に相談する羽目になったのことは同じだ。
現在、日本でクレジットカードを持っている人間は数えたらきりがない。しかも一人一枚というわけでもない。書籍上では出版された平成10年現在で約1億6000万枚出回っているそうだ。日本の総人口越えてるじゃん!!
現在、私はカードを当然持っていない。でも、日常普通に生活する上では不自由はない。なのになんで支払能力を超えるような返済を迫られるようになってしまうのか?
本書中の弁護士の台詞を読んで「あ、私もそうだった・・・」と寒気がした。
クレジットを使う最初の理由は単純なものだ。しかも額が小さいうちは返済にも困らない。私の場合はAD時代に制作費を立て替えて、自分の生活費がなくなったことが最初だった。
最初は抑制して金額は小さい。たしか1万円ぐらいだったと思う。翌月に300円ぐらいの利子をつけて返済。ほんと「大した事ない」と思った。
しかし、地方ロケの飛行機のチケットを急遽、取らなければいけなくなってしまい、技術スタッフにお願いするわけにも行かず、たまたまもっていたカードで支払いを済ませてからだんだんきつくなっていった。
私の知り合いが知っているのは末期の競馬がらみの話なので「こいつホント馬鹿だな」と思っていただろうがそこに行くまでにはいろいろあるのよ。
あとは絵に書いたような話。返済のために別のカードをつくり、自転車操業。ちょうど会社で上司(女性でした)とそりが合わなくなってきたこともあり、精神的に参ってきたところへ持ってきて、理不尽な仕事が増え(もう殆ど小学生のいじめみたいな話だった)心身ともにぶっ壊れてしまい、当然そんな状態では仕事なんかできず、精算すれば立替金は返ってくるのだがそんな時間も体力もとれず、殆どクビ同然で退社。「一回整理しよう」と借金を1箇所にまとめるつもりでサラ金にいったんさ。
そしたらそこのサラ金(五反田にあった)の人が親切な方で「破産」以外の方法があることを教えてくださり、弁護士を紹介していただき、今年にやっと全額返済できそうだという状態まで回復したのであります。芝居やってなきゃもっと早かっただろうに。
今はそうでもないだろうが当時(5年前かな)は「自己破産は悪である」という印象を受けていた(各種メディアの表面だけをみての報道のせいだが)ことと「一般人がどうやって弁護士を頼むのか」ということや「破産以外の方法がある」なんてことは全く知らないことだった。
ちなみに現在の多くの金融機関の設定利子は本来は違反なんですよ。知ってましたか?
詳細はきっちり調べてみないとなんともいえないし実際に法律書を読み解くのはかなり難解なのでちょっと事実と違うかもしれないのですが、なんでも「利息制限法」ってのがあるんですって。私の場合、その法律に基づき、不当(本来はカード作成時にものすごく細かい注意事項をしっかり読んで同意していることになっているので問題視されないのであるが・・・)な利子請求を放棄できるというようなことらしい。そして弁護士に手続き(弁護士にしかできない。これで弁護士は儲かるのよ)を依頼し、貸し元と示談にすることで返済金を元金(本来借りたお金)にまで落とすことができるんですよ。その返済方法と期限は債務者の生活レベルを弁護士が判断し(とはいっても相場は大体決まっているようだ)書面にて債権者に通知、債権者が承認印をついたところで示談が成立するわけです。大体合ってると思う。
この方法をとるとブラックリストには載らないらしい。(まあ、返済が滞った段階で乗っかるんですけどね。ちなみに金融機関のそういった個人情報のネットワークは全てつながっているんだそうだ。携帯電話の支払い状況なんかもわかるらしい・・・怖いねぇ)それに破産すると海外に出れないようなので(贅沢とみなされる)将来的に身動きがとりやすい。あたりまえのことだが借りたものをきちんと返せるし、個人の倫理観&道徳観もみたしてくれるし。とまあいろいろ。
私は本当にたまたま電話したサラ金が「食い物」にするタイプではなく「助けあげる」タイプのところでよかったが世の中には知らないばかりに夜逃げ、自殺、あるいは殺人などを犯してしまうケースが多いと思われる。
現在は報道が少なくなったことと救済センターなどの広報活動(東京では普通に電車の中刷りでぶら下がっている。私が頼んだ弁護士より手数料が安いです)によってそういった事件は減って入るのだろうがそれでも0にはなっていないと思う。痛ましいことだ。
話は全く持って自分のことになってしまったが、そんなようなことと全く同じことが書いてあったのさ。そりゃ、ズシーンときますよ。リアルに。
現代社会の問題点と人間の弱さと怖さ。今回はそこが身にしみる作品でした。
あと、今回は今まで読んだ3作と違い、物語の中心に子供がいない。そのことも話を重厚なものにしている要因の一つであろう。ただ、宮部さんは子供の視点を大切にしている。物事は多面性に満ちている。いろんな見方があるんだよと教えてくれているような気がする。
話の進め方は今回も起点では想像もつかないところへ着地する。あるところでは読者の期待にこたえつつ、ころっと手のひらを返してくる。そこに強引さは感じない。むしろ「そうくるんだ」とわくわくしてしまうのだ。結局、読んでいる間、ずーっと宮部さんの手の上で踊らされているんだなぁと読み終えて気づかされるのである。
物語を進める手法も面白い。
ストーリーテラーである休職中の刑事がひょんなことから捜索することになった女性の秘密に迫っていくというもの。その女性自体は結局、最後まで登場しない。親類、友人、同僚、知人への聞き込みによって、刑事の中でだんだんとその女性像が構築されていくのだが、それが自分が物語にトレースしやすくさせている。ストーリーテラーと同化しやすいのだ。いっしょになって読んでいる自分の中でもその女性像が構築されていくのだ。まるでパズルを組み立てていくように。
ただ、ちょっと残念なのはこの話、エピローグがない。話を締めていないのだ。
読んだ人ならわかると思うが、あの終わり方は「あり」は「あり」なのだが、個人的にはちょっと食い足りなかった。自分で想像しなさいってことなんだろうけど。
とにかく、カード破産の実態が非常にわかりやすく描かれている上にエンターテイメントとしても読めてしまう1冊で2度おいしい書なので通勤通学にちょっと時間がある方は読んでみてくださいな。私はブックオフで105円で買いました。